『こどもとねむり』まとめてみました。
A 乳幼児の睡眠障害
1)アトピーと睡眠の断片化
種々の生理現象や炎症・免疫疾患の発症に関与しているサイトカインと呼ばれる物質のひとつIL-6などの物質が、血液中に増加することで、ねむりが妨げられ睡眠障害の原因になると考えられている。
アトピー性皮膚炎や気管支喘息、アレルギー性鼻炎などアレルギー症状がひどいと、十分に睡眠をとることができなくなる。
逆に睡眠が十分にとれないとき、アレルギー性疾患も悪化する。
どんなにアレルギー性疾患がひどくても、夜間に十分な睡眠ができれば日中の活動が制限されることは少なくなり、アレルギー疾患は軽減していく。
ある皮膚科の談「アトピーに朝型はいない!」
2)〔PC Persistent Crying〕泣き続ける赤ちゃん
①一日3時間以上ぐずり泣き
②過去3週間で一週間のうちに3日以上ぐずり泣きが見られる。
↑
こういうこどもたちが学童期に入ったとき、約20%(5人にひとり)
広汎性多動性の問題がみられる。
「睡眠障害」や「哺乳障害」などを伴う場合、
ADHD(注意欠損多動性障害)や学業不振のリスクが高くなる。
赤ちゃんを寝かしつける方法として、
胎内体感音に似た音を聴かせることによって落ち着かせたり
又、スウォドリング(Swaddling)という乳児をおくるみ等でぐるぐる巻きにして、
手足を自由に動かせないようにして寝かしつける風習が南アメリカ、アジアにある。
http://www.downthelane.com/info/swadme_instruct.html
☆最近の調査では、10時を過ぎて就寝する3歳児が全体の60%程度に及ぶと報告されている。
3)睡眠障害の赤ちゃんの例
①なかなか入眠できない。(寝つきが悪い)
②睡眠中何度も目が覚めてしまうため睡眠がまとまらない。(睡眠の断片化)
③一日で眠っている時間が短い。(短眠)
④不機嫌で泣いてばかりいる。(持続的な泣き)
⑤一度目が覚めると1時間以上起きている。
⑥赤ちゃんの状態がお母さんの心と身体に悪影響を及ぼしている
⑦アトピーなどのアレルギー疾患がある。
↑
このような状態が続くと赤ちゃんを睡眠障害があると診断する。
睡眠不足が起こると神経細胞の成長・働きが損傷される。
睡眠は発達途上の時期に認知機能を成長させる大変重要なものである。
4)対策
①夜9時までに家中の電気を消して家族全員が眠れる体制を整える。
②夜泣きのときは無理に寝かさずに、一度電気をつけて起こす。
寝かせたままにすると、かえって不安にさせる。
一度安心させてから、もう一度寝かしつける。
③抗ヒスタミン剤やメラトニン(1.5mg時には3.0mg)を入眠させたい時間の約1時間前に投与。
乳幼児期では夜8時に服用させ、9時には入眠させるようにする。
うまく夜8~9時に眠るリズムがついたら薬はなるべく早く中止する。
④それでも効果無い場合は、睡眠剤を含む鎮静剤を追加する。
⑤高照度光治療
朝、身体の中心部の体温が上昇し始める時間を調べて5000ルクス以上の明るい光を浴びる治療法。
(三池先生の見解)
メラトニンの服用により、2~4週間でリズムのよい睡眠に帰ることができて、
その後の子供の発達にメリットがあると考える。
薬物をあまり怖がらず、早めの対処が必要。
(メラトニン)
脳の中心部にある松果体から分泌されるホルモンで、
夕方ごろから分泌され、脳の温度を下げるなどして人の眠りを
促す働きがある。
古くから時差ボケ対応薬として国際線クルーに用いられてきた。
B 幼児期以降の睡眠障害
幼児期以降になると、睡眠随伴症とよばれる睡眠障害が現れる。
①睡眠異常(Dyssomnia)
②睡眠時随伴症(Parasomnias)
睡眠異常(Dyssomnia)
a) 睡眠不足症候群
慢性的睡眠不足で日中眠たくて集中できない。
b)過眠型睡眠障害
10~11時間以上眠ってしまい学校や会社の生活が乱れる。
aとbは表裏一体である。
過眠型睡眠障害は慢性的睡眠欠乏状態の増悪型。
↓
このような状態が不登校や「ひきこもり」を引き起こす。
a)の原因
ア)アトピー・アレルギー性鼻炎・喘息
イ)夜型生活習慣と睡眠不足
BIISS(Behaviorally Induced Insufficient Sleep Syndrome)
↓
不登校の原因となる
日本では夜中の0時を過ぎて入眠する子供
3歳20%、14歳で60~70%にも及ぶ。
睡眠不足が慢性化すると「睡眠不足症候群」となり
重症化すると過眠型睡眠障害となったり
日常生活の乱れ、ひいては不登校の原因ともなる。
不登校は心の問題だけでなく、脳機能の疲労状態ともいえる。
C) 睡眠相後退症候群
①昼夜逆転
②10時間以上眠り続ける
③社会の活動開始時間に起床できない。
④長時間睡眠にもかかわらず、睡眠の質の低下
ねむけ、頭痛、倦怠感、食欲不振や増加
⑤勉強・仕事に集中できない。
⑥慢性化して学業仕事継続困難
⑦うつ状態が現れる。
⑧治療が困難になる。
高照度光治療などが必要。
引きこもり、不登校の主原因となる。
D) そのほかの過眠型睡眠障害
ア)クライネ・レヴィン症候群
反復性原発性過眠症
1日18~20時間眠る。
イ)ナルコレプシー
オレキシンという物質の欠乏が原因
ウ)特発性過眠症候群
持続性あるいは反復性の日中の過度の眠気発作
原因は夜間の睡眠の質の低下による。
エ)長時間睡眠者
睡眠時随伴症(Parasomnias)
ア)悪夢障害(Nightmare Disorder)
恐ろしい夢を見て目覚めを繰り返す。
レム睡眠中に起こる。
イ)睡眠時驚愕障害(Sleep Terror Disorder)
驚愕や泣き声で始まる睡眠中の覚醒が繰り返し起こる。
ノンレム睡眠のステージ3~4(脳波に徐波といわれる大きな波が
現れる比較的深い睡眠時)
主要睡眠の最初の1/3の間にみられ、1~10分ほど続く。
4~12歳ころに始まるが、青年期には自然におさまる。
ウ)睡眠時遊行症(Sleepwalking disorder)
ベッドから起き上がり歩き回ることを含む、
睡眠中の複雑な運動行動の反復エピソード
エ)むずむず脚症候群(Restless legs syndrome、RLS)
じっとした姿勢や横になったりすると、主に下肢にむずむずした感覚が現れ
睡眠障害となる。
オ)夜尿症
これらの睡眠時随伴症状はそれによって著しく睡眠が障害される場合
治療を必要とする。
抗ヒスタミン剤・ベンゾジアゼピン系抗不安薬・L-Dopaなどで治療する。
C 睡眠と発達障害の関係
発達障害だと診断された子供たちには乳幼児期「昼寝をしない子だった」という
履歴が多い。
乳幼児の睡眠障害は注意欠陥・多動性障害(ADHD)
や自閉の背景になること、睡眠異常が青年期まで続いて様々な問題を引き起こすので、早期の治療が必要。
乳幼児に安定剤はむやみに使いたくない、メラトニンでは効かない場合
入院治療で高照度光治療が有効な症例あり。
↓
発達に問題がある場合、子どもたちの生活リズムを観察し是正する必要あり。
また、メラトニンは有効な場合も多く、20ポイントも発達指数が改善された例もある。
よって、小児科医は子供の不眠に対してしっかりと注意し対処すべきである。
①ADHD(Attention Deficit Hyperkinetic (Activity)Disorder)
注意欠陥・多動性障害
☆DSM-Ⅳ(精神障害の診断と統計マニュアル改訂版4」(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)による
ADHDの診断基準
こちらを参照 ↓
http://www20.big.or.jp/~ent/kotoba/dsm_4.htm
近年、乳幼児期の睡眠問題とADHDの関連性を述べる論文も増えている。
②自閉症と睡眠障害
自閉症児において、早ければ胎児期・新生児期から問題が起こっている。
新生児期に泣いてばかりいるという印象が多く認められる。
また自閉症児は成長した後でも睡眠障害が残ることがよく見受けられる。
昼夜逆転した睡眠異常。
自閉症児には
入眠困難・頻回の中途覚醒・睡眠時間の不規則性・総睡眠時間が短い
など共通した問題。
↓
少なくとも3歳までの間に治療開始すれば、かなり正常に近い発達と十分なQOLが得られる。
また、コミュニケーションを中心とした臨床症状の改善もみられる。
③ レム睡眠について
レム睡眠は経験した情報をしっかり蓄える、いわば「脳の情報網」を構築する眠りである。
「生活時計機構」と「社会時計機構」のずれが自閉症発症の基本的問題であるといえる。
↓
ホルモン分泌も生体リズムが関与
発達障害は脳機能のバランス崩壊であるといえる。
↑
発達障害でも「予防治療が可能である」ということを示唆する。
D 発達障害と治療薬
☆ 現在リスパダール(リスペリドン)のエビデンスが高い。
ドーパミンとセロトニンを抑える効果。
ドーパミン2(D2)受容体とセロトニン2(5-HT2)受容体を遮断する。
セロトニン・ドーパミン拮抗薬(SDA:Serotonin-Dopamine Antagonist)とか
5-HT2/D2拮抗薬などと呼ばれている。
副作用も比較的少ない。
〔効果〕
①合わない視線が合い始める
②言葉が出始める。
③みんなの中に入っても活動できるようになる。
④パニックがなくなる。
⑤家族や保母さんの指示が通りやすくなる。
⑥乱暴な行動がなくなる。
[投与法・投与量]
1日1回 夕食後から眠前
3歳で最大投与量 3~4mg
リスペリドンは処方量に依存して効果が出現しやすいので、
思い切った処方が効果的である。
投与経験のある医師に相談するのが良い。
☆すべての問題で納得いく改善が見られたときその4~6ヶ月に
服用を中止しても再発はあまりみられない。
しかし、リスペリドンは代謝が早いため、年齢が低い幼児に大量投与が必要
早期にしっかり使用&早期に使用中止が理想的
☆リタリン(メチルフェニデート (METHYLPHENIDATE, MPH)
本来メチルフェニデート は中枢神経刺激薬であるが
ADHD を持つ子供には鎮静効果があり、衝動的行動や行動化の傾向を軽減し、学校生活や他の作業に集中できるようにする。
しかし、リタリンの使用法をめぐって様々な問題が発生している。
(千葉県で息子の受験勉強のため母である女医が処方して問題。
男性医師は、リタリン依存症になり自殺などや
ネット販売による乱用など)
現在、徐放剤であるコンサータが使用されている。(年齢制限 6~18歳)
E 睡眠障害の治療薬
1)メラトニン1.5mg(1~3mg)
ヒトの生体時計を調整する働きをもつホルモン。
寝つきの悪い症状に効果あり。
2)カタプレス (クロニジン)
脳幹部のα2受容体に選択的に作用し、
交感神経の緊張を抑制することにより
本来は大人の血圧を下げる薬だが、導眠に効果あり。
ただし中途覚醒には効果なし。
3)インデラル (プロプラノロール)
同様の効果あり
β受容体遮断薬なので
ただし喘息のある患者には使用不可。
4)抗ヒスタミン剤
レスタミンコーワ
ペリアクチン
ポララミン
アタラックスP
一日量の1/3~2/3を眠前に服用
5)睡眠剤
1~4で効果ない場合
三環系うつ剤、中間型睡眠剤を投与している
6)マイナートランキライザー 抗不安薬
発達障害児の不安を取り除く
7)メジャートランキライザー
リスペリドン
①初回0.3~0.4mgを処方
②1~2週間ごとに0.3~0.4mg増量し有効量を探す。
③効果の有無を1~2ヶ月の間観察
効果判定は目に見える改善変化があるか否で決める。
幼稚園の先生の評価が信頼性ある。
④有効かつ最低量の設定
この量を4~6ヶ月維持した後は状態を見て減量し、
⑤最終的には中止する。
中止しても再発はしない。
☆再発が見られる場合はもう1~2ヶ月再処方する
(考察)
・比較的大量を要する子どもの場合服用期間が長くなる傾向がある。
場合によっては1年くらいのこともある。
・暴力など家庭内暴力のある患者は1mgのリスペリドンで有効なこと多い。
・興奮性の高い自閉症児の治療には3mgという多量投与もあり。
理由は幼い子どものほうが代謝が早く体外に放出されるため。
(ただし、副作用が出た場合は中止せざるをえない。)
(効果)
①視線が合うようになる。
②言葉がしっかり出るようになり、コミュニケーションが取れ始める。
③パニックが起こらなくなる。
④複数の子どもたちの中で遊べるようになる。
⑤相手の気持ちを考えられるようになる。
(副作用)
リスペリドンは比較的自閉症改善には副作用が少ない。
ただ、「夜尿症」の出現することがある。
その場合は副作用が出ない量で経過観察する。
そのほか、一日中ぼんやりしている、血糖値が高くなるなどが知られている。
8 ) 多動症がおさまらない場合。
メチルフェニデート(コンサータ)
小児は主成分として初回18mgを1日1回朝に服用することから開始し、
維持量は1回18〜45mgを1日1回朝に服用します。
増量する場合は1週間以上の間隔をあけて1日9mgまたは18mgずつ増量する。症状により適宜増減し、1日54mgを超えない。
アトモキセチン(ストラテラ)
小児は1日体重当たりアトモキセチンとして0.5mg/kgの服用から開始し、
その後1日0.8mg/kgとし、さらに1日1.2mg/kgまで増量された後、
維持量として1日1.2~1.8mg/kgを服用。
増量する場合は1週間以上の間隔をあけ、
いずれの場合も1日2回に分けて服用。症状により適宜増減されるが、
1日量は1.8mg/kgか120mgのいずれか少ない量を超えない。
(問題点)
薬物治療しかも、特にメジャートランキライザーによる治療というのは、
保護者による嫌悪感があり、無理に投与はできない。
またこれまでのコ・メデディカル スタッフによる仕事に変化を余儀なくされる側面がある。
「自分たちの仕事をとられた」「否定された」という思い。
けれど、薬物治療による改善のあとのサポートや観察が大事なので、
コメディカルスタッフの仕事を否定するわけではない。
F まとめ
・子どもの睡眠時間確保は保護者の意識が重要
・正しい睡眠教育の必要性
・子どもの発達に睡眠が大きな意味を持つことを医療人から啓蒙すべき
・発達障害の早期発見の引き金ともなりうる「睡眠障害」を見逃さず、
早期治療で発達障害児のQOLの向上や社会適応性を高めることができる。
・不登校・ひきこもりの問題も、睡眠障害が原因のひとつとも考えられる。
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参考文献
こどもとねむり 三池 輝久 (著) メディアイランド
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