これは、私のYahooブログに以前書き綴っていたものですが。
私が今受けているセミナーで学んだことの忘備録として、
ブログに最新のDI (Drug Information : 薬の情報)を順次まとめることにしました。
今回 うつ病・パニック症候群・強迫性障害に 処方される、SSRI パキシルについてです。
販売されている錠剤(10mg /20mg) (グラクソ・スミスクライン社)
劇薬・処方箋医薬品
(http://database.japic.or.jp/pdf/newPINS/00046341.pdf#search='パキシル 錠')
SSRIとは(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor)の略で、
日本語では選択的セロトニン取り込み阻害薬といいます。
うつ病などは、現在、
脳内でセロトニンを放出するセロトニン神経の活性が著しく低下すると考えられています。
SSRIは、セロトニン神経において
セロトニンの再取り込みを司っている セロトニントランスポーターの働きを抑制し、
脳内セロトニン濃度を上昇させることで、
うつ病などの神経症状を改善する薬剤なのです。
「現在主に行われている処方」
[ うつ病、うつ状態 ]
通常1日1回夕食後 パロキセチンとして20~40mg を経口投与。
投与量は1回10~20mgより開始し、原則として一週ごとに10mg/日ずつ増量する。
ただし、1日40mgを超えない範囲で適宜増減する。
[ パニック症候群 ]
投与量は1回10mgより開始し、原則として一週ごとに10mg/日ずつ増量する。
ただし、1日30mgを超えない範囲で適宜増減する。
[ 強迫性障害 ]
投与量は1回20mgより開始し、原則として一週ごとに10mg/日ずつ増量する。
ただし、1日50mgを超えない範囲で適宜増減する。
☆ パキシル投与で注意すべき事項 ☆
精神神経用剤などを長期使用していた患者がその使用を急に中止したり、
投与量を減量した際にみられる、精神及び身体的諸症状。
不安・焦燥・不眠などが一般的。
[パキシル減量法]
現在の投与量をAとすると。
1/2A 2 週間 ⇒ 1/4A 2 週間⇒ 退薬
というような漸減投与法を用いる。
2 若年者の自殺リスク増大
パキシルでは18歳未満の患者(大うつ病性障害患者)への投与に関して、
警告が出ています。
☆海外で実施した7~18歳大うつ病性障害患者を対象とした、
プラセボ対照臨床試験において、
パキシルの有効性が確認できなかった。
及び、自殺念慮、自殺企図が観察されました。
☆現在のところ、他のSSRIである ルボックス(フルボキサミンマレイン酸塩)
SNRIである トレドミン(ミルナシプラン塩酸塩)では警告は出されていません。
ただし、24歳以下の患者に対しては、
リスクとベネフィットを考慮して使用する必要あり。
3 バイアスピリンなどの抗血液凝固作用のある薬物との併用において、
出血傾向の危険性が高まる。
( 理由 )
セロトニンは血小板中にも存在し、血小板のセロトニン受容体を介して
血小板凝集を促進しています。
☆ SSRIによる継続的なセロトニン再取り込み阻害は、
脳と同様、血小板においてもセロトニン受容体の受容体減少
ダウンレギュレーション*(down regulation)が起こると考えられるからです。
* down regulation とは。。。
受容体の量自体が減少すること。
down regulationが起こると、薬物に対する反応性が低下する。
よって、 パロキセチンと止血・血液凝固を阻害する薬剤
非ステロイド性抗炎症剤NSAID( アスピリン)やワルファリン等
また、出血症状の報告がある薬剤(フェノチアジン系抗エイシン病剤・非定型抗精神病薬
三環系抗うつ薬)との併用においては、出血傾向が増強するおそれがあるので注意すること。
4 抗精神病薬との併用による悪性症候群**
** 悪性症候群とは。
ある種の抗精神病薬によって ひきおこされる 無反応状態のこと。
抗精神病薬の治療患者の最大 3%に治療開始から数週間以内に
筋肉のこわばり、高熱、心拍数の上昇、呼吸数増大、高血圧、こん睡などの症状が起こる。
まれに 腎臓の損傷や腎不全をひきおこす重篤な事態となる。
(理由)
現時点では併用による作用発現機序は解明されていませんが、
ドパミン受容体遮断やドパミンとセロトニンの不均衡が原因だと考えられています。
5 血圧降下剤(ロプレソール 等)との相互作用
ロプレソール( メトプロロール酒石酸塩)とパキシルの併用で
重度の血圧低下を生じた症例報告がありました。
(理由)
パキシル(パロキセチン)がロプレソールの代謝に関わる CYP2D4を阻害すると
考えられるため。
不可逆酵素阻害である。
通常の酵素阻害と異なり阻害剤が代謝酵素によって代謝され、その代謝物が酵素を
不可逆的に阻害する。
☆ また他のSSRI薬剤、デプロメール・ルボックスともに
CYP2D4に対して弱いながら阻害作用を示すため代替えとなっても注意が必要。
6 点眼薬 チモプトールとの併用による 全身作用の発現
なぜ?点眼液と?という疑問がありますが、
時として、目薬点眼後、鼻に抜けた薬液が胃や腸に入り、
吸収されて全身性の副作用を起こすことがあるのです。
チモプトール点眼液の成分 マレイン酸チモプトールは、
まれでありますが、β- 遮断薬としての全身作用が個人差はありますが、
出現することがあり、脈拍減少、肺機能低下を起こすことがあるのです。
このチモプトールもCYP2D4により代謝されることにより、
5で述べた パキシルのCYP2D4阻害作用により、
チモプトール点眼薬のβ- 遮断薬としての全身作用が起こる可能性があります。
7 他の抗うつ薬から パキシルへの切り替えには注意を要する。
特に、三環系抗うつ薬からSSRIへの切り替えに注意。
三環系うつ薬、トフラニール(イミプラミン)などは
副作用として、口渇・便秘・眼のかすみ・傾眠などが強く、
SSRIなどに変更の際、
三環系うつ薬を急に中止すると 悪心・神経過敏症状・不安・筋けいれんなどの離脱症状がおこる。
そのため三環系うつ薬漸減しながら パキシル投与という併用処置が
とられることにもなり、両剤の併用により
イミプラミンはSYP2D4により代謝される薬物なので、
上記5・6で述べた相互作用がおこる。
また、両剤併用により セロトニン症候群*4 が惹起されたとの報告もある。
セロトニン症候群*4 とは。。。
セロトニンやドパミン系に作用する薬においてみられる重篤な副作用。
主に、精神状態の変化(錯乱・軽躁)・興奮・ミオクローヌス
深部腱反射亢進・発汗・悪寒・振戦・下痢・協調運動障害・発熱。
薬剤開始や増量後1日以内の早期に発症することが多い。
初期、前駆症状としては、
発熱・もうろう状態・発汗・体のこわばり・ふるえなど。
以上、簡単ではありますが、SSRIのパキシルについてまとめてみた次第です。
現在、軽度うつ病・パニック症候群・強迫性障害の第一選択薬として
頻用されている SSRIですが、
私たちは、医療従事者として、患者さんのさまざまな症状や副作用、
及び、併用薬のチエック等、注意しなければならない薬剤のひとつとなのです。
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